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佐賀家庭裁判所 昭和40年(少)777号 決定

少年 G・T(昭二三・九・一五生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(罪となる事実)

少年は昭和四〇年八月○日午前零時二〇分頃、鳥栖市○○町△△駐在所北方約四〇〇メートル位の国道○号線路上を久留米方面から鳥栖方面に向け佐○い○○○号小型普通貨物自動車を運転進行中、同所附近において福岡県三潴郡××町○○○○○××××番地肉販売業の江○勝(二一歳)と進路妨害のことで口論となり、相互に殴り合いとなつたところ、少年は暴力では勝目がないと思い隠し持って居た匕首のような鋭利な刃物(一五センチ位)で江○勝の右胸部を突き刺し、以て同人に対し肺臓および心臓に達する刺創を与え、よつて同日午前一時七分出血多量により死に至らしめたものである。

(罰条)

刑法第一九九条

(少年の要保護性)

一、本件は、前示地点の国道○号線路上を少年が先行中に被害者が女給二名を同乗させ、少年の車を追越したところ、少年はその追越しに憤慨し、更に被害者の車を追越さんとしたが、被害者が蛇行をしてこれを妨げるので癒々激昂し、辛うじて隙を見て追越すや俄かに急停車し、被害者の車を追突の止むなきに至らしめた。そうして被害者との間に喧嘩となり、遂に所携の匕首類似の刃物で被害者を刺すに至つたものである。

二、鑑別の結果によると、少年は人格未成熟な興奮型で性格的に即行、不安定、自己顕示、爆発性等に偏倚があり、そのため我が強く、負けず嫌いで気に入らないと攻撃的な烈しい態度に出易いものがあるようである。少年の非行歴は無いが、護身用として匕首類似の刃物を常時携帯して居たり、喫煙、夜遊び、パチンコ遊び等が、稍常習性を帯びている点からすると不良化への道程にあつたことも推認するに充分である。

三、本件犯行の動機は一に示した経過からすると、被害者が少年の車を追越し、その上少年が追越しかえそうとしたのを妨害したため、少年が憤慨したことに求められるが、矢張り少年の前示性格的負因が斯かる犯罪行為を為すに至らしめたものと言えよう。

四、さて、少年の処遇については、少年が貴重な人命を奪つたこと、匕首類似の刃物を携帯して居たこと、犯行後に逃走し、且本来関係のない第三者に犯人蔵匿を為さしめたこと、被害者の感情の昂進、社会的影響を夫々顧慮するとき、刑事処分を以て望む必要性も首肯されないでもない。しかしながら一面少年は一七歳に達したばかりであること、本件犯行についての反省、悔悟の念も深いこと、少年の性格の矯正は保護処分においても、その目的の達成が可能と考えられること、被害者側が偏狭な考え方を持つているため、未だ被害弁償は出来て居らないが、保護者は誠意をもつて被害弁償をする意思を現わして居ること等の諸点を綜合すると必ずしも社会通念にてらし、保護の限界を超ゆるものとは考えられないので少年に対しては保護処分を以て臨むのが最も適切ではなかろうか。そうだとすると少年には要保護性があると認められるので少年院に送致の上矯正教育を受けさせることにする。而して送致すべき少年院は本件事案の重大さ、少年の性格的負因および年齢を合せ考えると特別少年院が相当である。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 末光直己)

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